前の記事に関連しての留学生新聞白石誠さんの論評です。各方面に深く取材しています。
留学生新聞ニュースWEEKLY
2008.3.26 論評
───「数値目標30万人」「在留資格一本化」───
●留学生受け入れ 新目標のハードルは高し
「留学生問題」が、永田町と霞ヶ関で関心の的となっている。昨日(25日)初会合が開かれた「教育再生懇談会」では福田首相が自ら留学生の受け入れ拡大を指示。今国会の施政方針演説で表明した受け入れ「30万人」の実現へ意欲を見せた。また自民党の留学生等特別委員会では、大学や専門学校などで学ぶ「留学生」と、日本語学校で学ぶ「就学生」の在留資格を1つにまとめるべきとの意見が最近複数議員から出され、有力マスコミが「留学生、就学生と一本化へ」などと報じた。
■「留学」「就学」の一本化に 法務省は慎重姿勢
とはいえ、事はそう単純ではなさそうだ。30万人という目標の達成が一筋縄ではいかないことは一目瞭然だが、「留学生」と「就学生」の在留資格一本化についても、本紙が各方面から取材したところでは、その道のりには相当の紆余曲折が予想され、仮に実現したとしても、形式的・象徴的なものにとどまりそうだ。
法務省関係筋は『留学生新聞』のインタビューに対し、この問題は「各方面から要望されている話なので引き続き検討しているが、あくまでも実施の有無も含め検討している段階だ」と述べ、具体的なタイムテーブルはなく、今後の状況次第では「留学」と「就学」の両在留資格がそのまま現状維持となる可能性もにじませた。
一本化実現の判断基準として、同関係者は「不法残留率と犯罪率が減少すること」を条件に挙げた。ここ数年、特に就学生の犯罪件数などには改善の傾向がみられるが、同関係者は「確かに絶対数としては減少してきているが、外国人登録者数との比較など他の基準でみた場合に、絶対に大丈夫な状況といえるのか」と現状に疑問を呈し、引き続き厳格な入国審査を堅持する方針を示唆した。
同関係者は近い将来、仮に「留学」「就学」の一本化が実現した場合の審査基準についても、大学と日本語学校、あるいは入国・在留管理の優れた日本語学校とそうでない日本語学校との取り扱いが同一になることには否定的な見解を示し、「そこは運用上の問題なので、運用で対応する」とも述べ、同じ「留学」ビザとなった後も、各校の在留状況に基づいて審査する現行の方針を変えない考えを明言した。
■「留学」昇格へ 高まる期待
一方で全国の日本語学校が加盟する(財)日本語教育振興協会では「(外国人向けに設けられている)27の在留資格を全般的に見直す法務省の作業の一環として『留学』『就学』の一本化が議論されていると聞いている。当協会ではかなり以前から日本語学校生への『留学』資格付与を求めているが、現時点ではその働きかけがどれほど奏功したかは何とも言えない。実現の具体的な見通しもない」としている。日本語教育振興協会は、就学生への通学定期券の付与やアルバイト(資格外活動許可)条件の緩和などをかねてから訴え、これらは部分的に実現しており、「留学」「就学」の格差解消の総仕上げとも言える一本化には歓迎の立場だ。
■「30万人」の虚実
さて、福田首相は今国会の所信表明演説において留学生の「受け入れ30万人計画」を打ち出した。就任前から留学生の増加を訴えてきた首相のこの問題への関心は高く、25日に初会合を開いた「教育再生会議」の後継組織である「教育再生懇談会」においても、自ら「留学生の受け入れ拡大」を重要検討課題として指示したという。
その一方で、在留資格「一本化」との関連では、留学生「30万人」が「実現不可能な数字と言われないようにするために、現在の数(約12万人)に日本語学校生(約3万人)の数を『留学生』として加え、底辺となる数字を底上げしておきたいのが本音ではないか(大学関係者)」といった冷ややかな見方も根強い。
■留学生拡大を方向づける 真剣な議論が必要
中曽根内閣以来ほぼ四半世紀ぶりに打ち出された留学生受け入れ目標が、このように単なる「数合わせ」と見られないためにも、「30万人」に対する具体的な政策の肉付けが急がれる。例えば(1)奨学金制度の拡充や留学生宿舎の更なる整備(2)国立大学留学生に偏重している留学生予算の、私大生や専門学校生等への拡大再配置(3)各校における精神的ケアの充実と、オーバーステイ化を防ぐ留学生安全網(セーフティネット)の構築(4)留学したい国・日本にするための国を挙げた就職サポート、など、具体策に踏み込んだ提案を、教育再生懇談会には期待したい。
そして何より、留学生拡大の生命線となるのが、入国管理を司る法務省入管であることは言うまでもない。首相が掲げた大方針と、法務省・入管を含めた各省庁関係者との間に厳然として存在する現状認識のギャップを埋めない限りは、「30万人」は絵に描いた餅となりかねない。今こそ「留学生受け入れを拡大する」と言うだけでなく、拡大のためには現状において何が問題であり、その解決のために何を成すべきなのか、真剣な議論が闘わされるべき時なのではないか。
留学生新聞ニュースWEEKLY
2008.3.26 論評
───「数値目標30万人」「在留資格一本化」───
●留学生受け入れ 新目標のハードルは高し
「留学生問題」が、永田町と霞ヶ関で関心の的となっている。昨日(25日)初会合が開かれた「教育再生懇談会」では福田首相が自ら留学生の受け入れ拡大を指示。今国会の施政方針演説で表明した受け入れ「30万人」の実現へ意欲を見せた。また自民党の留学生等特別委員会では、大学や専門学校などで学ぶ「留学生」と、日本語学校で学ぶ「就学生」の在留資格を1つにまとめるべきとの意見が最近複数議員から出され、有力マスコミが「留学生、就学生と一本化へ」などと報じた。
■「留学」「就学」の一本化に 法務省は慎重姿勢
とはいえ、事はそう単純ではなさそうだ。30万人という目標の達成が一筋縄ではいかないことは一目瞭然だが、「留学生」と「就学生」の在留資格一本化についても、本紙が各方面から取材したところでは、その道のりには相当の紆余曲折が予想され、仮に実現したとしても、形式的・象徴的なものにとどまりそうだ。
法務省関係筋は『留学生新聞』のインタビューに対し、この問題は「各方面から要望されている話なので引き続き検討しているが、あくまでも実施の有無も含め検討している段階だ」と述べ、具体的なタイムテーブルはなく、今後の状況次第では「留学」と「就学」の両在留資格がそのまま現状維持となる可能性もにじませた。
一本化実現の判断基準として、同関係者は「不法残留率と犯罪率が減少すること」を条件に挙げた。ここ数年、特に就学生の犯罪件数などには改善の傾向がみられるが、同関係者は「確かに絶対数としては減少してきているが、外国人登録者数との比較など他の基準でみた場合に、絶対に大丈夫な状況といえるのか」と現状に疑問を呈し、引き続き厳格な入国審査を堅持する方針を示唆した。
同関係者は近い将来、仮に「留学」「就学」の一本化が実現した場合の審査基準についても、大学と日本語学校、あるいは入国・在留管理の優れた日本語学校とそうでない日本語学校との取り扱いが同一になることには否定的な見解を示し、「そこは運用上の問題なので、運用で対応する」とも述べ、同じ「留学」ビザとなった後も、各校の在留状況に基づいて審査する現行の方針を変えない考えを明言した。
■「留学」昇格へ 高まる期待
一方で全国の日本語学校が加盟する(財)日本語教育振興協会では「(外国人向けに設けられている)27の在留資格を全般的に見直す法務省の作業の一環として『留学』『就学』の一本化が議論されていると聞いている。当協会ではかなり以前から日本語学校生への『留学』資格付与を求めているが、現時点ではその働きかけがどれほど奏功したかは何とも言えない。実現の具体的な見通しもない」としている。日本語教育振興協会は、就学生への通学定期券の付与やアルバイト(資格外活動許可)条件の緩和などをかねてから訴え、これらは部分的に実現しており、「留学」「就学」の格差解消の総仕上げとも言える一本化には歓迎の立場だ。
■「30万人」の虚実
さて、福田首相は今国会の所信表明演説において留学生の「受け入れ30万人計画」を打ち出した。就任前から留学生の増加を訴えてきた首相のこの問題への関心は高く、25日に初会合を開いた「教育再生会議」の後継組織である「教育再生懇談会」においても、自ら「留学生の受け入れ拡大」を重要検討課題として指示したという。
その一方で、在留資格「一本化」との関連では、留学生「30万人」が「実現不可能な数字と言われないようにするために、現在の数(約12万人)に日本語学校生(約3万人)の数を『留学生』として加え、底辺となる数字を底上げしておきたいのが本音ではないか(大学関係者)」といった冷ややかな見方も根強い。
■留学生拡大を方向づける 真剣な議論が必要
中曽根内閣以来ほぼ四半世紀ぶりに打ち出された留学生受け入れ目標が、このように単なる「数合わせ」と見られないためにも、「30万人」に対する具体的な政策の肉付けが急がれる。例えば(1)奨学金制度の拡充や留学生宿舎の更なる整備(2)国立大学留学生に偏重している留学生予算の、私大生や専門学校生等への拡大再配置(3)各校における精神的ケアの充実と、オーバーステイ化を防ぐ留学生安全網(セーフティネット)の構築(4)留学したい国・日本にするための国を挙げた就職サポート、など、具体策に踏み込んだ提案を、教育再生懇談会には期待したい。
そして何より、留学生拡大の生命線となるのが、入国管理を司る法務省入管であることは言うまでもない。首相が掲げた大方針と、法務省・入管を含めた各省庁関係者との間に厳然として存在する現状認識のギャップを埋めない限りは、「30万人」は絵に描いた餅となりかねない。今こそ「留学生受け入れを拡大する」と言うだけでなく、拡大のためには現状において何が問題であり、その解決のために何を成すべきなのか、真剣な議論が闘わされるべき時なのではないか。
generated by feedpath Rabbit
コメント